日高と天皇 第12回 

敗戦・新憲法発布、麦青・八高線 編

 

武蔵高萩駅 

 兎追いし彼の山、小鮒釣りし彼の川

行け戦場に、行け満蒙に、片道切符の旅

老若男女、日の丸の旗、歓呼の声

兵士に死を! 昭和天皇と東条英機

老若男女、日の丸の旗、歓呼の声 万歳、万歳

 

敗戦! 昭和天皇とマッカーサー

敗残兵、引き上げ者、遺骨、シベリヤ抑留者

喜びと不安、無言の帰国、改札で渡す配給切符、暖かい故郷の土の感触

日の丸の旗、歓呼の声は無く、ただ山河あるのみ。

高麗川の水音、静かに時間を刻む


戦死者の霊にささぐ 水村転蓬

美くしきこの山河と
いとしき人を守るべく
勇躍おもむきし四百の若人
はるかなる空の下に
弾丸つきて ついに帰らず

泥水をすヽり 木の葉かみ
肉弾をもつてよく寸土を死守せるも.
無念なり 物量の差を如何せん
たのむ援軍は海没し
現わるは何事ぞ 見なれぬ巨艦のみ

いまは術なし と決意するバンザィ攻摯
死地を前にかすめるは何ぞ
あヽ わがふるさとよ無事なれ
日和田は常に青く
高麗川は永久に青く

高萩の土地 また豊なれ
父母よ なげき給うな
さみしくも 妻よこらえよ
吾児よまた 父なしとなげくなかれ
汝が父は斯く散りし
平和のいしずえなれば

さらばはや 未練なしと
敵地深く斬込む孤島の守備隊
敵艦めがけて自爆する特攻機
爆薬抱きてキャタピラにくぐる北満の兵等
あヽ 壮烈 鬼神を泣かしむ

かくて郷土の若人
いまもなお異国の地にねむる
願わくばヤシの実よ
その芳香をもって英霊のノドをぬらせ

彼の大陸のスズランよ アンズの花よ
今年も又 そのまくらべにさけ

(昭和四十年 「嗚呼いしずえ」収録)

 

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