こだま通信 第20号 2004年7月1日

 梅雨の合間に近くの公園に行ってみました。その公園は我が家より歩いて5分ほどのところにあり、菖蒲の花で有名です。植えられた菖蒲には品種ごとに名前の立て札が付いており勉強になります。 花が終わる頃に咲き終わった株を分けてくれます。抽選により昨年は我が家も一本貰うことができました。その菖蒲は無事咲くことができました。細い茎に大輪の花を咲かせる菖蒲の姿は見事です。 菖蒲の花が終わる頃、田んぼの苗はすっかり大きくなりあぜ道の高さと同じぐらいの背になります。夏に入ると蛙の合唱が始まります。今ごろはお玉じゃくしの蛙さんが田んぼのなかですくすくと育っているのでしょう。なんとなくうきうきとする季節です。今年は参議院選挙があります。7月11日、投票日です。しっかり選びましょう。


日高と天皇

第6回 本土決戦と航空士官学校教育部門の満州移動命令

 太平洋戦争の成果と見通しは悲観的になってきました。日本の敗戦が間近になってきたのです。広大な中国大陸を経てフィリピン方面など飛行部隊の満州国からの転出は続き、その後昭和19年12月末には満州に居た飛行部隊は奉天の防空戦闘に従事する飛行部隊のみとなりました。奉天は現在の瀋陽。清王朝を打ち立てた女真族の故郷(後金国)であり、かつて日本が満州国の重要都市として整備した都市です。後金の初代皇帝ヌルハチと二代皇帝太宗(ホンタイジ)の陵墓がある事で知られ、後金の時代、北京の故宮を模した瀋陽故宮もあります。 また満州時代に軍閥の
重鎮・張作霖が爆殺された土地です。
 
 国境付近に増強されたソ連軍に対する備えが進められる中、日本は軍備の見なおしを行いました。しかしその戦い方は「玉砕」と決められ、兵士には国境の死守が命ぜられました(20年1月、関東軍作成・大本営に提出した報告)航空機の装備は特攻用に改造され、その訓練も熾烈を極めました。しかし資材の逼迫は苛烈を極め、満州にいる日本人(開拓団など)への精神的影響の考慮なども重要になっていました。戦争指導に当たっていた大本営は帝国陸海軍作戦計画大綱を見直します。本土防衛態勢確立と称し、大本営は天号作戦を進めました。これは後に沖縄戦、東シナ海沿岸戦などにつながります。これに並行して大本営は内地に展開する防衛軍の戦闘序列を定めました(決号作戦)。4月1日に米軍が沖縄に上陸しました。大本営は航空戦力の再編を行いました。本土決戦の準備です。このころに陸軍航空士官学校の操縦教育部門の満州移動が決まりました。内地および満州において操縦訓練を受けていたものが、決号作戦における決戦戦力と決められたのです。

「かくて、満州は北辺における持久とともに、わが航空兵力造成の重要な一翼を担うことになった」と同書は記している。(戦史叢書満州方面陸軍航空作戦)この記述にある陸軍航空士官学校には高萩飛行場が含まれていました。この高萩飛行場機材移動の様子は日高市の歴史家横田氏の著書「ふるさとの記憶」に詳しい。時代は東条内閣から小磯内閣に代わっていました。神風特攻隊も登場していました。これら教育隊の訓練内容についての記述がさらに続きます。操縦訓練は航空戦からソ連機甲部隊に対する訓練に変わり「超低空飛行、夜間飛行、対戦闘機戦闘、「タ」弾、15キロ弾による爆撃訓練に励んだ」と記されている。特に目を付けられたのは教官で相当の熟練者であったから、特攻精神の注入が特別に図られその訓練に力が入れられたと記されている。このような状況であったため、高萩飛行場への天皇行幸も計画されず、また天皇は国体護持のため全精力を傾注できたのではないか。 この高萩飛行場の人員・機材移動に関し、もうひとつの証言があります。それは陸軍航空士官学校の卒業生の団体「偕行社」の協力により出版された書籍「陸軍士官学校」です。

 この本は高萩飛行場=別称「修武台分校」および本校から満州に送られた飛行機、生徒・教官(約1000名)について特別にページを割き、満州への輸送・配属の状況、航空訓練の様子などについて詳述しています。さらに敗戦とともにいち早く内地への生徒達の移動の様子も描かれています。この様子は作家「藤原てい」の「流れる星は生きている」に描かれた日本人の塗炭の苦しみを味わいながらの帰還の様子とは対照的です。また日本人に協力した現地の朝鮮人や中国人たちへの制裁の様子は「小さな長征(子供が見た中国の内戦・八路軍従軍)」にも触れられている。
 軍幹部は内地への「報告」と称して飛行機で日本に帰り、生徒たちは朝鮮南端部の釜山を経由して輸送船「興安丸」などに乗り、修武台および各地解散場所へ帰ったと記されています。しかし一部(約100名)はソ連軍に捕まり、極寒の地に抑留生活を送ることになります。持ちこまれた機材についての消息は詳しく触れられていません。日高市出身者のシベリヤ抑留・満州開拓団の消息についてはさらに研究を要する問題です。いずれご紹介したいと思います。

(続く)

この稿参考図書(前回と重複分は省略)

戦史叢書満州方面陸軍航空作戦 防衛庁防衛研修所戦史室著 朝雲新聞社 飯能市立図書館蔵
陸軍士官学校 山崎正夫編 協力「偕行社」 秋元書房 飯能市立図書館蔵
流れる星は生きている 藤原てい 中公文庫 日高・飯能民主文庫蔵
小さな長征(子供が見た中国の内戦・八路軍従軍) 法村香音子 社会思想社 日高・飯能民主文
庫蔵


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